私自身はけしてオカルトを信じるタイプではなく、むしろ懐疑派に近い人でもあります。幽霊話など、まじめに受け取らないのが普通。
けれども、そうして幽霊話などを信じない私と同時に、いつももう一人の私が心の中にいます。
そのわたしはいつも、モノや土地には記憶があると信じています。
わたしたちが何かをすれば、モノや土地はそれを覚えているのです。例えば、宗谷岬から神戸まで旅をした私の車は、私と一緒にそれを覚えてる。だから私は、自分の車でそこに行くことにこだわるし、一度行ったことがあっても、車がまだならわざわざそこに行ったりする。
別に、本気で信じているわけではありません。けれど、歴史のある街並みや遺跡などを見ると、そこに残された記憶に思いをはせてしまいます。
それから人の記憶も。死んだ人の記憶は、もう手に入れることは出来ないけど、でもなんだか、どこかに漂っているような気持ちがしてるんです。たとえば戦争で苦労した祖父の記憶とか……。
こんな気持ちが強くなるのは、廃墟やうち捨てられた品を見たときです。彼らの持つ記憶を私が受け取ることは出来ないけど、それがなんだかもどかしくて、手に入らないモノを欲しがってる子供のような気持ちになって、なんだか心が苦しくなってきます。
どんな人が、この建物やこの品を愛しただろう。
その人たちは、どんな思い出をここに残したんだろう。
知ることが出来ない記憶。時間の壁のむこう。
こういう気持ちはもちろん、人間特有のものなんでしょう。
なんだか後ろ向きな気持ちかも知れませんが、なんとなく心地よかったりするので、この特権を楽しんでみたりしています。
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